「脳血管障害と Quality of life の評価」

宇高不可思 ([財]住友病院神経内科)
亀山正邦 ([財]住友病院院長)


1>はじめに

 脳血管障害は主として中高年者に起こる疾患であり、ひとたび発症すれば精神的・身体的に大きい障害を生じる。さらに、危険因子としての高血圧や動脈硬化、心疾患などの背景因子も、Quality of life(QOL)に影響していると考えられる。したがって、脳血管障害患者のQOLの評価に際しては、現症の詳細な分析と背景因子の解明が重要である。精神的・身体的健康度のみならず、経済的豊かさ、家庭内および対外的な人間関係、職業や社会的活動、レジャーなどに関する満足度を評価に組み入れる必要がある(表1)。しかし、社会習慣や文化の差も無視できず、欧米で作成された図1のような評価尺度をそのままわが国で用いるには無理がある。

2>QOLの一般的・包括的評価

 一般的な健康状態や精神状態を質問する評価法で、ビジュアル・アナログスケール(図1)や、患者のQLOが脳血管障害の発症によりどう変化したかを、発症前の幸福度に対比して答えさせる方法などがある。


表1 脳血管障害後のQOLに関する質問表(文献2による)

仕事 家庭内活動 家族関係ほか 家庭内外でのレジャー
就職の有無
仕事への満足度
仲間の自分に対する態度
上肢の自分に対する態度
仲間に対する自分の態度
上肢に対する自分の態度
食物の調理
掃除
洗濯
洗い物
家庭の仕事を手伝う
子供の世話をする
家庭内での意思決定に参加(投資、ローンなど)
家庭内の重要問題に参加(就学、将来計画、自分時間の使用法など)
子供との関係
親としての役割
配偶者としての役割
  関係
  性的関係
配偶者に対する情愛
  性的欲求
  離婚考慮
以下のことに興味、関心をもつか戸外活動(歩く、キャンプ、泳ぐ、ゲームなど)
 家庭内の記念日
 知人によるパーティー、ダンス
 映画、演劇、コンサート
 クラブに参加、慈善団体
 政治活動
 教会・宗教活動
 展覧会、音楽会、図書館
 旅行
 手仕事
 料理
 読書
 その他:切手収集、写真、コーラスなど


3>機能障害の内容別評価法
 脳血管障害によって生じた運動麻痺、ADL(activities of daily living)の障害、感覚の低下またはしびれ感・痛みなどの感覚障害、知的機能の低下、高次脳機能障害、抑うつなどの程度と患者の受け止める深刻度を調査し、これらがQOLに及ぼす悪影響を評価する方法である。図2は厚生省研究班で作成した評価尺度の概要で、機能障害のほか、自覚的健康度や社会的・主観的指標も加えている。表2にその質問事項の抜粋を示す。表3は筆者らが現在用いている評価尺度で、QOLの一般的・包括的評価と、機能障害の影響の評価の両者を組み合わせている。
表2 QOL質問表T群−−自覚的健康度
次の1〜10の質問について解答内容の1.2.3.の中からひとつ選んで解答欄に○をつけて下さい。
質問 回答内容 回答欄 (配点)
1.食事がおいしくいただけますか 1.いつもおいしい
2.ときどきおいしい
3.いつもおいしくない





2.最近6ヶ月の間に体重が変りましたか 1.変わらない、あるいは少し太った
2.少し(1〜5kg)やせた
3.かなり(5kg以上)やせた






3.寝つきはよいですか 1.よい
2.眠りにくい日がときどきある
3.睡眠薬が必要






4.ぐっすり眠れますか 1.いつもよく眠れる
2.2〜3日に一度は眠れないことがある
3.睡眠薬が必要






5.朝早く眼がさめて困ることがありますか 1.ない
2.ときどきある
3.毎日






6.どうき、息ぎれはありますか 1.ない
2.ときどきある
3.毎日のようにある






7.疲れすぎると感じることがありますか 1.ない
2.多少ゆううつである
3.毎日のように感じる






8.気分が沈んでゆううつですか 1.ない
2.多少ゆううつである
3.いつもゆううつである






9.イライラして落ち着かないことがありますか 1.ない
2.ときどきある
3.いつもある






10.いつも身体のことが気になりますか 1.気にならない
2.ときどき気になる
3.いつも気になってしかたがない







4>脳血管障害者におけるQOLの評価と治療
 QOLを悪化させる因子のうち重要なものは、抑うつ状態、不安神経症、中枢性疼痛または強いしびれ感、高度の運動麻痺、ADLの中等度異常の障害、離職などである。そのほか、脳血管障害のリハビリテーションの阻害因子として知られているものの多くは、QOLの悪化因子であると思われる。患者の治療の最終目標はQOLの改善であるが、QOLの悪化要因は相互に関連し、単純ではない。したがって、まず最初に何がその患者のQOLの悪化に最も多く関与しているかを知ることが大切である。この点を重視して作成したのが、表3の評価尺度である。