「片麻痺機能テストA−手指」

上田 敏

(帝京大学医学部付属市原病院リハビリテーション科)


1>片麻痺における手指機能の回復過程

 手指の機能は人間で特によく発達しており、ヒトをサルと分かつ3つの特徴の一つといわれている(他は直立歩行と言語)、5本の指に各々3つの関節があり[母指では手根中手(CM)関節をこれに算える]、少なくとも2つの運動の自由度をもっている[U〜X指の近位と遠位の指関節(IP)関節は、普通、同時に屈曲あるいは伸展する]。
 しかし中枢性麻痺においては、上肢・下肢全体に共同運動(synergy)が見られるのと同様に、手指についても原始的な集団運動(mass movement)が支配的となる。この意味で中枢性麻痺は上下肢と同様に、手指においても質的変化である。
 片麻痺の発症直後には普通、手指の随意的運動は全くなく、筋緊張も極めて低下した弛緩状態(flaccid)である。これは脊髄レベルの下位運動支配中枢自体が機能を停止している状態に当る。その後まず脊髄レベルの機能が回復するが、そのもっともよい指標は連合反応(associated reaction)である。これは健手に強い力を加えた時に患手に筋活動が生ずることで、手指では健手に握力計を持たせて強く握らせた時に、患側に無意識的に指の屈曲運動が生ずることで一番テストしやすい。連合反応の出現と前後して筋緊張が回復し、やがて亢進するが、屈筋の緊張の方が強く、安静時でも常時軽い屈曲位をとっていることが多い。
 随意運動の回復は初め集団屈曲(mass flexion)運動、遅れて集団伸展(mass ectension)運動が可能となる。初めは両者とも僅かな動きであるが、徐々に大きな動きができるようになる。多くの場合、伸展よりも屈曲の方が容易である。
 集団運動の段階で回復が止ることも少なくないが、幸いこれ以上に回復が進めば上肢・下肢の場合と同様に、個々の運動の分離・独立が徐々に進行する。手指は複雑な構造をしているので、これにも次節に述べるように「横の分離」と「縦の分離」とがある。


手指



No
テストの種類 出発肢位・テスト動作 判  定
@







出発肢位:前腕中間位 手指進展位(可能な限り)
手関節は中間位(背屈位1/4以下までを含む)〜拳屈位の範囲
注)1)前腕中間位がとりにくい場合は、テスト者が軽く支えてもよい。
出発肢位がとれない。または不能(出発肢位はとれる)
ROMの1/4未満
ROMの1/4〜3/4
ROMの3/4以上
出発点と終点との差で判定する。
@健手ROMを基準(4/4)とする。
AMP、IPの角度を足し合わせて判定する。すなわち、指末節の最終位置により判定することになる。
B全指が揃わない場合は平均して判定する。
A


出発肢位:全腕中間位 手指屈曲位(可能な限り)
手関節は中間位(背屈位1/4以下までを含む)〜拳屈位の範囲
注)1)前腕中間位がとりにくい場合は、テスト者が軽く支えてもよい。
出発肢位がとれない、または不能(出発肢位はとれる)
ROMの1/4未満
ROMの1/4〜3/4
ROMの3/4以上
出発点と終点との差で判定する。
@健手 ROMを基準(4/4)とする。
AMP、IPの角度を足し合わせて判定する。すなわち、指末節の最終位置により判定することになる。
B喘指が揃わない場合は平均して判定する。
B






手関節背屈 出発肢位:前腕中間位 手指屈曲位
注)1)手指屈曲3/4以上あればよく、肘を机の上につき、手部は机の面から少し浮かして行なう。
不十分 ROMの3/4未満
十分 ROMの3/4以上
@テスト施行中の手関節撓尺屈はROMの1/4以内であればよい。
C




四指屈曲位で示指伸展 出発肢位:前腕中間位
全指屈曲(ROMの3/4以上)
手関節は中間位(背屈位1/4以下までを含む)〜拳屈位の範囲
注)1) 拇指・V〜X指の屈曲は、3/4以上に自力で保っていることが条件。途中で3/4以下になる場合はならない範囲で
不十分 ROMの3/4未満
十分 ROMの3/4以上
     
D MP伸展でのIP屈曲
(背屈位)
出発肢位:前腕中間位
手関節背屈(ROMの1/4以上)
MP伸展(ROM3/4以上)
注)1)拇指の位置は自由とし、判定には含めない
不十分 ROMの3/4未満
十分 ROMの3/4以上
@背屈は全ROMの1/4以上をテスト動作中、自力で保っていることが条件。途中で1/4以下になる場合は、ならない範囲の角度で判定する。
A全指が揃わない場合は平均して判定する。
※これが「縦の分離」に当る。テストNo.C、E、Fは「横の分離」である。
E 四指屈曲位での示指伸展
(背屈位)
出発足位:前腕中間位
全指屈曲位(ROMの3/4以上)
展関節背屈(ROMの1/4以上)
注)1)拇指は屈曲していればその位置は問わない
不十分 ROMの3/4未満
十分 ROMの3/4以上
@背屈は全ROMの1/4以上をテスト動作中、自力で保っていることが条件、途中で1/4以下になる場合は、ならない範囲の角度で判定する。
A拇指・V〜X指の屈曲は3/4以上に自力で保っていることが条件。途中で3/4以下になる場合は、ならない範囲の角度で判定する。
F 四指屈曲位での小指伸展
(背屈位)
出発肢位:前腕中間位
全指屈曲位(ROMの3/4以上)
手関節背屈(ROMの1/4以上)
注)1)拇指は屈曲していればその位置は問わない。
不十分 ROMの3/4未満
十分 ROMの3/4以上
@背屈は全ROMの1/4以上をテスト運動注、自力で保っていることが条件。途中で1/4以下になる場合は、ならない範囲の角度で判定する。
AT〜W指の屈曲は3/4以上に自力で保っていることが条件。途中で3/4以下になる場合は、ならない範囲の角度で判定する。
G スピードテスト 鉛筆を机の上からT.U指の指腹つまみで5回(2〜3cm程度)つまみあげて離す。5回で判定しにくい場合は、10回行なわせて計測する。
(ストップウォッチで秒単位に小数点1ケタまで測定)
注)1)まず健側で行なわせて正しいやり方



計測は10回分として計算し、小数点1ケタまで記載する。
健側   秒。  患側   秒
不十分 患側/健側の比が1.0を超える。
または、患側の所要時間が8秒を超える。
十分 患側/健側の比が1.0以内で、かつ、患側の所要時間が8秒以内
     
H 連合反応 健手に握力計を持たせ、最大限握らせた時に、患指の屈曲が超えるかどうかをみる。
患手の位置は自由(膝の上、体側など)
不十分 なし
十分 あり

表  手指の総合判定

2>「横の分離」と「縦の分離」

 集団運動においては5本の指が同時に「集団的」に屈曲あるいは伸展するが、他の指が屈曲している時にある指を単独に伸展することができれば、それが横の分離である。また集団運動では一本の指の中で中手指節(MP)関節と指節間(IP)関節とが同時に屈曲あるいは伸展をするが、MP屈曲位でのIP伸展、逆にMP伸展位でのIP屈曲ができれば、これが縦の分離である。正常の手指では横にも縦にも各関節は完全に分離しているために、どのような形をもとりうるわけである。
 このような分離運動ができはじめることは、皮質を含む上位運動支配中枢による下位中枢への支配が回復しはじめ照り留ことと考えられる。この支配力は普通徐々にしか回復せず、リハビリテーションで機能的作業療法・運動療法などを行っても、数ヶ月から年余にわたる気管を費やして分離が進んでいくものである。もちろん分離がある程度進んだところで、それ以上の回復が止まることもすくなくない。横の分離と縦の分離とはほぼ並列して進んでいく。
 分離の達成後に最後に残る問題に運動のスピードが正常かすることで、はじめて完全に近い回復といるのである。1)

3>本テストの施行法

 本テストは以上のような片麻痺における手指の運動回復の法則を踏まえて、多数の施設の共同研究により、非常に多くの片麻痺患者に多数のサブテストを施行し、その結果の解析に基づいて信頼性(再現性),妥当性の高いサブテストを選択することによって、上下肢の片麻痺機能テストと同様に12グレードに標準化することができたものである2)。一見複雑に見えるが、馴れれば2〜3分で施行可能である。
 回復の順序からは前記のように連合反応が最初に回復するが,連合反応をテストすると患手の屈筋の緊張が高まって、その後のテスト結果が不正確になるので最後に行う(番号も最後にしてある)。
 同様にテスト1(集団屈曲)を先に行うとテスト2(集団伸展)が困難になるので、2を先に行,ついでに1を行う。この2つのテストの結果からグレード6までの判定が可能である(前ページ総合判定表参考)。グレード6に達している場合にはテスト4、6というようにとばしてテストし、2つ連続して「十分」になったテストの中の番号の大きいものによってグレードを決める。テスト1、2のどちらもが不能の場合にのみテスト9(連合反応)を行い、グレードの0か1かを決定する。