「片麻痺機能テスト@−(上肢・下肢)」

上田 敏

(帝京大学医学部付属市原病院リハビリテーション科)

1>「質的変化」である中枢性麻痺

 脳卒中における運動麻痺は中枢性麻痺であって、多発神経炎などの末梢性麻痺、あるいは筋疾患による筋力低下とは本質的に異なるものである。
 末梢性麻痺・筋疾患における筋力低下は正常(筋力テストで筋力5)から完全麻痺(同0)の間に分布し、回復の経過も筋力が徐々に増加していくという量的変化である。これに対し中枢性麻痺では、脳卒中だけでなく、外傷性脳損傷など奥の疾患に共通のこととして、回復途上で正常では見られない原始的な運動症状が出現し、回復が更に進めばある時点からそれが次第に弱くなって正常の運動にとって代わられるという質的変化を示すのが特徴である。この原始的な症状には従来からよく知られている痙性・固縮も含まれるが、より本質的なのは原始的共同運動(primitive synergy)、連合反応と姿勢反射である。特に原始的共同運動(以下共同運動)はSherringtonの除脳動物における屈筋反射、伸筋反射に対応するもので、脊髄に座をもつ下位運動中枢の運動支配の現れである。
 共同運動には上下肢共に屈筋共同運動パターンと伸筋共同運動パターンとがある。すなわち、この支配下にある状態では、上肢ならば肩・肘・手・指の緒関節を同時に屈曲(肩外転・外旋・前腕回外を伴う)するか、伸展(肩内転・内旋・前腕回内を伴う)するのかの2種類の動作しかできず、屈曲と伸展を適宜組み合わせた動作は不可能である。

2>片麻痺機能テストの標準化

 以上のような質的変化である中枢性麻痺の評価は徒手筋力テスト、あるいは機器を用いる筋力測定法では不可能であり、再現性のない、極めて奇妙な結果しか示さない。Brunnstromのテストの改良・標準化として多数の施設の共同研究により12グレード法片麻痺機能テストが作られ、信頼性、妥当性が確認された2)。


上 肢



No
姿
テストの種類・出発肢位・テスト動作
判 定
@

●伸筋パターン:連合反応(大胸筋)
出発肢位:患側の手先を耳に近い位置におく(屈筋共同運動パターンの形)
テスト動作:健側の肘を曲げた位置から、徒手抵抗に対して肘を伸ばさせる。
その時、患側の大胸筋に収縮が怒るかどうか触知する。



不十分>(無)
十分(有)
A ●伸筋パターン:随意収縮(大胸筋)
出発肢位:@と同じ
テスト動作:「患側の手を反対側の腰の辺に伸ばしなさい」と指示し、大胸筋の収縮を触知する。
随 
意大
収胸
縮筋
 の
 触
 知
不十分(無)
十分(有)
B ●伸筋パターン:共同運動(随意運動)
出発肢位:@と同じ
テスト動作:Aと同じ動作で手先がどこまで動くかをみる(伸筋共同運動)



不可能

不十分
耳〜乳頭
乳頭〜臍
十分
臍より下
完全伸展
C

●伸筋パターン:共同動作(随意運動)
出発肢位:手先が健側の腰のところにくるようにおく(肘最大伸展位、前腕回内位にする−伸筋共同運動パターン)。
テスト動作:「患側の手を耳まで持っていく」ように指示し、手先がどこまで上がるかをみる。



不可能
可能
不十分
0〜臍
臍〜乳頭
十分
乳頭以上
耳の高さ
D ●坐位で手を背中の後ろへ
手を背中の後ろへまわす。
手が背中の中心線から、5cm以内に達するかどうかみる。
一動作で行うこと。
不可能
不十分 体側まで
体側を越えるが不十分

脊椎より5cm以内
E ●腕を前方水平位に拳上
腕を前方水平位にあげる。
(肘は20°以上は曲がらないように気をつける。肩関節での水平内外転は±10°以内に保つ)。
不可能
不十分 5°〜25°
30°〜55°
十分 60°〜85°
90°
F ●肘屈曲位で前腕回内
肘を曲げる前腕の回内(拳を下に下げること)を行なう。
肘を体側にぴったりとつけ、離さないこと(つかない場合は失格)。
肘屈曲は90°±10°の範囲に保つ。
不十分 肘が体側に
つかない
体側につくが
前腕回外位
前腕中間位
保持可能
回内5°〜45°
可能
十分 回内50°〜85°
回内90°
G ●肘伸展位で腕を横水平位に開く
肘伸展位のままで腕を横水平に開く。
上肢は真横から20°以上前方に出ないようにし、肘は20°以上は曲がらないように気をつける。
     不可能
不十分 5°〜25°
30°〜55°
十分 60°〜85°
90°
H ●腕を前方上方に拳上
バンザイをする
肘は20°以上曲がらないようにし、前方からできる限り上にあげる。
上肢は横に30°以上開かないようする。
不十分 0°〜85°
90°〜125°
十分 130°〜155°
160°〜175°
180°
I ●肘伸展位で回外
肘伸展位で前方にあげて、前腕を回外する(拳を上に向ける。)
肘は20°以上曲げず、肩関節は60°以上前方拳上する。
不十分 前方拳上位を
とれない
とれるが
前腕回内位
中間位をとれる
回外5°〜45°
十分 回外50°〜85°
回外90°
J ●手を肩から頭上に拳上する(スピードテスト)
手先を肩につけ真上に拳上する。
これをできるだけ早く10回繰り返すに要する時間をはかる。
拳上の際に肘が20°以上曲がっていてはならず、肩関節は130°以上拳上すること。
所要時間 健側 秒
患側 秒
不十分 健側の
2倍以上
健側の
1.5〜2倍
十分 健側の
1.5倍以下

下 肢



No
姿
テストの種類・出発肢位・テスト動作 判 定
@


●レイミストの連合反応(内転)
健側の下肢を少し開いておき、徒手抵抗に抗してそれを閉じさせる。
患側下肢の内転の動き、または内転筋群の収縮があるかどうかをみる。
股内転の誘発
連合反応
不十分(無)
十分(有)
A
●随意収縮
随意的に患側下肢を閉じ(内転)させ、内転筋群の収縮を触知する。
随意収縮
(股内転筋群の触知)
不十分(無)
十分(有)
B
●伸筋共同運動(随意運動)
出発肢位:膝を90°曲げ、自然に股外転、外旋した位置(膝が外方に開く)にある(屈筋共同運動パターン)
テスト動作:「患側の足を曲げる」ように指示し、随意的な動きの有無、膝がどこまで伸びる
随意運動
(膝伸転)
不可能
可能 不十分 90°〜50°
45°〜25°
十分 20°〜5°
C
●屈筋共同運動(随意運動)
出発肢位:股伸展位(0°〜20°)(伸筋共同運動パターン)
テスト動作:「患側の足を曲げる」ように指示し、随意的な動きの有無、程度をみる(股関節屈曲角で)
随意運動
(股屈曲)
不可能
可能 不十分 5°〜40°
45°〜85°
十分 90°〜
D
●股関節屈曲(下肢伸展拳上)
膝伸展位のまま拳上させ、股関節の動く角度でみる。この間、膝関節は20°以上屈曲してはならない。
不可能
不十分 5°〜25°
十分 30°〜45°
50°〜
E

●膝関節の屈曲
出発肢位:膝関節90°の坐位
テスト動作:足を床の上ですべらして膝関節を100°以上に屈曲。
股関節は60°〜90°の屈曲位に保ち、足を床から離さずに行なうこと。
不可能
(不十分)
可能
(十分)
F ●足関節の背屈
踵を床につけたままで足関節を背屈
5°以上の背屈を可能とする。
不可能
(不十分)
可能
(十分)
G
●足関節の背屈
股、膝伸展位のままで足関節の背屈動作
不可能
不十分 可能だが底屈域内
十分 背屈5°以上可能
H ●膝伸展位で足関節背屈
足関節背屈動作の有無と程度をみる。
股関節は60°〜90°の屈曲位で膝は20°以上曲がらないようにして行なう。
不可能
不十分 可能だが底屈域内
十分 背屈5°以上可能
I ●股関節内旋
膝屈曲位で中間位からの股関節内旋動作の角度をみる。股関節60°〜90°屈曲位で大腿部を水平にし、膝関節90°±10°を保って行なう。
不可能
不十分 内旋5°〜15°
十分 内旋20°〜
J ●股関節内旋(スピードテスト)
(テストIの動作)
膝屈曲位で、中間位から股関節内旋動作を10回行なうに要する時間
(内旋が20°以上できること。その他の条件はテストIと同じ)
健側を先に測定すること。



健側 秒
患側 秒


健側の2倍以上
健側の1.5〜2倍
十分 健側の1.5倍以下

表1 下肢・上肢の総合判定
総合判定
(グレード)
テストNo. 判 定 参考
(ステージ)
1(連合反応) 不十分(2,3,4も不十分) T
1(連合反応) 十 分 U−1
2(随意収縮) 十 分 U−2
3,4
(共同運動)
一方不可能・他方不十分 V−1
両方ともに不十分または
一方不可能・他方十分
V−2
一方十分・他方不十分 V−3
両方ともに十分 V−4
5,6,7
(ステージWのテスト)
1つが十分 W−1
2つ以上が十分 W−2
8,9,10
(ステージXのテスト)
1つが十分 X−1
10 2つが十分 X−2
11 3つが十分 X−3
12 11
(スピードテスト)
ステージXのテストが3つとも十分で、かつスピードテストが十分 Y
(該当するグレードに印をする)

3>本テストの原理

 グレード0は完全麻痺、グレード1(連合反応のみ+)は脊髄レベルの下位中枢が僅かに活動を始めた状態、グレード2(僅かな随意的筋収縮)は脳の上位中枢からの命令がようやく脊髄レベルに伝わり始めた状態、グレード3〜6は上位中枢によって促通された共同運動が出現し徐々に強まっていく課程で、ここまでが片麻痺の回復の前半であり、グレード6は共同運動が完成した、いわば「折り返し地点」である。ここにとどまる例も多いが、幸いにここを過ぎることができればグレード7〜11は共同運動の規制力が弱まり、個別の運動が分離独立していく課程である。グレード12では速い動作も可能となり、ほぼ完全回復とみることができる。
 なお痙性・固縮の程度とグレードとは、直接関係は乏しい。固縮が強い場合には速い繰り返し動作が困難にあるため、グレード11から12になることが難しいが、痙性はほとんどグレードに影響を及ぼさない。

4>本テストの施行法

 図1に示した姿勢、出発肢位、動作、判定基準(主な動作および各種関節の動きの許容範囲等の条件)を正確に守って各テストを実施し、その結果(十分、不十分)を表1の総合判定表にあてはめてグレードを得る。
 テストは番号順に行う必要はなく、まずテストNo3、4を行う。この両者が十分であればテスト5〜7の中のひとつ、それが十分であればテスト8〜9を行い、その成績によりその前後のテストを行うというように要領よく行うのがよい。3、4が不能の場合には2、1をテストする。
 一見複雑に見えるが、馴れれば上下肢のテスト両方を2〜3分で行う事ができる。