「アルツハイマー型痴呆と脳血管性痴呆の鑑別のための計量診断表」

平井俊策

(群馬大学医学部神経内科)

1>計量鑑別診断法

 脳血管性痴呆は脳血管障害、特に脳梗塞に由来する痴呆である。したがって、脳血管障害があることが前提となり、しかもその発症と痴呆の発症との間に時間が認められることが必要である。脳血管障害の特徴は、第一に発症が急激なことが多いこと。第二に麻痺などの神経症候を伴いやすいことである。このため脳血管性痴呆もこのような特徴を持っている。これに対してアルツハイマー型痴呆は退行変性疾患であり、発症は徐々で進行するのが大きな特徴である。これを特徴づける老人斑と神経原線維変化は、まず海馬に出現して側頭葉に広がり、やがて頭頂葉そして前頭葉へと進展するが、運動領や感覚領を侵し難いという特徴があるので、麻痺や感覚障害などの神経症候を示しにくい。つまり臨床症候からみると、発症とその後の経過つまりtemporal profileの違いと神経症候の有無が鑑別上非常に大切である。
1)Hachinskiのischemic score(虚血スコア)
 これは計量鑑別診断法として最もよく知られ、現在もよく用いられている(表1−A)本来は脳血管性痴呆の診断のための計量診断法として作られたものであり、脳血管性痴呆と特徴づけられる項目に点数がつけられるような表になっている。脳卒中の既住があることはもちろんのこと、急激に発症し症状の消長や段階的像悪がみられるということは、先に述べた脳血管障害の特徴である。危険因子として高血圧の合併が多く、他のアテローム硬化が合併しやすいことも当然である。脳血管性障害では身体的な訴えがあり、精神症状として抑うつがしばしばみられることもよく知られている。最近はいわゆる無症候性脳梗塞の段階から抑うつがかなりの頻度でみられることが報告されているが、このような傾向は脳血管性痴呆になっても認められる。
 つまり、以上のような項目は脳血管性痴呆それ自身よりも、脳血管障害自体の特徴であるといえよう。さらにアルツハイマー型痴呆が全般性痴呆であり人格の崩壊が目立つの対し、脳血管性痴呆は「まだら痴呆」で人格が比較的よく保たれることも以前から知られてきた特徴である。そのほかに夜間せん妄と感情失禁があげられているが、われわれが以前アルツハイマー型痴呆と脳血管性痴呆にみられる精神症候や問題行動について比較した結果でも、脳血管性痴呆の方に有意に多くみられる症候として、この二つが認められた(図1)
 以上からHachinskiの虚血スコアは、脳血管性痴呆を積極的に診断するためにスクリーニング法としては妥当であると考えられる。これでは得点7点以上が脳血管性痴呆と診断され、4点以下がアルツハイマー型痴呆とされるが、アルツハイマー型痴呆は除外診断としての点数といえる。アルツハイマー型痴呆でも夜間せん妄は起こり得るし、抑うつ状態も初期の頃にはみられる。また老年者であるから高血圧や他のアテローム硬化を合併することもあり得るので、これらの合計の4点程度まではアルツハイマー型痴呆でも十分取り得る点数である。




2)Loedのmodified iscemic score(表1−B)
 これはHachinskiのスコアの中から脳血管障害を示唆する主要なもののみを取り出し、これにCT所見を加えたものである。いうならば脳血管障害があることを確かめるための表であるともいえる。その点でより明確ではあるが、鑑別に大切な随伴神経症候の特徴がすべて除かれてしまっており、脳血管障害があることのみの診断になっている点が物足りない。この診断表ではCT所見が加えられていることが特徴であるが、脳血管障害があることのみの診断ならば、CTの代わりにMRIを加えれば他の項目は不必要であるともいえる。
3)Portera-Sanchezのvascular scale(表1−C)
 これもLaebのものとほぼ同様であるが、高血圧の既住とEEG所見がいれられていることがやや異なる。しかし、現在EEGは鑑別診断上では余り重要視されていない。中間の得点を混合型痴呆の得点としているが、その妥当性は疑問である。



4)松沢病院方式の天秤法(図2)
 これは計量診断法ではないが、脳血管性痴呆とアルツハイマー型痴呆のそれぞれと特徴づける項目を左右に配し、そのバランスがどちらに片寄るかにより診断の助けにするものである。1)〜3)の計量診断法が脳血管性痴呆の特徴のみをあげ、アルツハイマー型痴呆については除外診断としているのに比し、アルツハイマー型痴呆の特徴をも積極的にあげている点が特徴である。脳血管性痴呆の項目は、言語障害がほかの神経症状とは別にあげられている以外はHachinskiの虚血スコアの項目とかなり共通している。


2>計量診断法の限界と使用上の注意
 これらの診断法はあくまでもスクリーニングのためのものであり、これだけでは誤診が多い。特にアルツハイマー型痴呆でたまたま痴呆に関係ない脳血管障害を合併した場合や混合型痴呆は、すべて脳血管性痴呆と診断されてしまうことに注意が必要である。やはり痴呆の発症と脳血管障害の発症との時間的関連や、痴呆や随伴神経症状の特徴などを細かく分析すつことが大切である。鑑別の要点を表2に示す。